ショートショート|謎のガッツポーズ
お昼に銀行のキャッシュコーナーに並んでいたら、ちょっと不思議な光景を目にしました。
隣の列の先頭のオジサン、機械から出てきた通帳をしばし眺めた後、小さくガッツポーズ。児玉清みたいでした。
昼飯を食べながら、いろいろと妄想してしまいました。ガッツポーズに至るまでのオヂサンの経緯について。
で、勝手にストーリ
オヂサンは40数年間勤めた会社を、この春にリストラされちゃったんですね。
ずっと総務・経理畑。地方の中堅企業、下請けメインの機械部品、主に自動車部品専門の流通業ね、きっと。
まじめに黙々と、毎日伝票を手書きし、元帳に転記し、銀行に行き、事務所に戻る。
40数年間、ずっと毎日ですよ。2年前に亡くなった先代の社長の金庫番として勤め上げてきた。
それがね、2代目若社長が、若いアルバイトのオネーチャンを事務員として雇ったと思ったら、急にコンピュータを買っちゃったわけ。正確には500万円の5年リース月々9万5千円でね。
○○奉行とか番頭とかいうの?シリーズで全部。
で、パソコンに伝票の内容を『チャチャッ』と打ち込んだら、プリンタからすぐに伝票が『ダダダッ』て出てくるのね。で、売掛とか買掛とかの残高も、マウスを『クリッ』とやれば出てきちゃうわけ。とか若いコンピュータ屋のオニーチャンが得意げに言うわけよ。
いやもう驚いたね。ホント。便利便利。
で、オヂサンの仕事はなくなっちゃったわけで。早期自主退職制度とかいうの?それでやめちゃったのね。
奥さんも『オトーサン、ウチのローンも終わったし、ミーちゃん(娘:仮名)も短大卒業して就職決まったし、年金暮らしでのんびりしたら?ゴルァ!』とかやさしいこと言ったり。
娘も『そうよ、オトーサン、パソコンでも買って、ウチでのんびり勉強したら?ニートですかオマエ!』とか言うわけ。
で、オヂサンは自主退職して、お家でひたすらネットサーフィン。行き着く先はお約束の2chですよ。しかもVIP板。さらにコテハンにまでなったりして。
もうね、娘とか及びでないわけですよ。立派なVIPPER、引きこもりですわ。
で、オヂサンが勤めていた会社は?というと、事務のキャミソールネーチャンと、コンピュータ屋のイケメンメガネ君がデキチャッタわけ。
会社の金庫番たるオヂサンがいないんで、コンピュータに入力された数字が全てなんですね。誰もチェックできない。
そこで、キャミとメガネが共謀しちゃうのね。とりあえず10万くらいって。退職したオヂサンの名義で架空口座作って、現金を入金しちゃうのね。これなら疑われるのは元経理の退職したオヂサンでしょって。おろして使うのはもちろん自分達。
実は、ミーちゃんとキャミは同じ短大の同級生だったりして。いまでも週末に一緒に飲みに行ったりするわけ。
そこで、ミーちゃんはキャミの新しい彼氏のメガネ君を紹介されるのね。それより、キャミの服装がいきなりド派手になってるのをみて、『今日、同伴出勤?』とか聞いてしまうのよ。
で、酔っ払ったキャミがミーちゃんに口滑らしちゃうのね。『○○っていう親切な足長オヂサンがいるのよ。あ、○○ってアンタと同じ苗字ですね。コノヤロー。』みたいな。
ミーちゃんが真昼間から銀行通帳握り締めて外出するオヂサンをみかけて、自転車でそーっと後をつけてくと、当然のように銀行のキャッシュコーナーに入っていく罠。
で、オジサンの斜め後ろからヂ~っと見つめている金髪オヤヂがいるのね。実はそれがオイラだったというヲチ。
オジサンの通帳の振込み元には『グーグル』とありましたとさ。ブログのアフェリエイトで稼いでいたのね、オヂサン。
-----------------糸冬了-----------------
みたいなことを妄想して『ぷぷっ』とか吹いてたら、カレー屋の店内で周りから変な目で見られたよ。
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